仕事や家事を終えて、ふっと一息つく夜のひととき。疲れた身体と心をほぐすように、『きのう何食べた?』をつい読みふけってしまいます。
弁護士のシロさんと、美容師のケンジ。同性パートナーとして共に暮らすふたりの、日常と食卓を描いた作品です。
二人は日々の食事を大切にしながら、歳を重ねるにつれて訪れる変化を受け入れ、お互いをそっと気遣い合っています。そんな二人の暮らしを覗き込んでいるうちに、自分の人生や身近な人たちを、あらためて大切にしたいと思えてきます。
今日から真似できる、生活に寄り添う食卓
料理漫画は「とても美味しそうだけど、この食材、近所のスーパーには売ってないなぁ」と思うことがよくあります。この作品が他と一線を画すのは、そこなんです。
作る料理は、特売や季節限定でお得になる、どこのスーパーにもある食材を使うものばかり。しかも、数日分の献立を頭の中で組み立てる様子もしっかり描かれています。
さらに、煮込んでいる間に別の食材を刻み、隙間時間で洗い物まで終わらせる手際も見事です。読んでいると「夕飯作りで真似してみよう」「冷蔵庫の中身なら何が作れるかな」と、自然とキッチンに立ちたくなってきます。
また、読み進めるうちに気づくのは、これらが単なるレシピではないということです。「実家での味付けが、今の献立の土台になっている」「大人になって初めて美味しいものを食べて、そこから好きになった」といった、食を通した人生の積み重ねが、さりげない会話の端々ににじみ出てきます。
この作品を読んでいると、無性に台所に立ちたくなるから不思議です。実際に、フライパンひとつでドーンと作れるメニューに挑戦してみました。身近な食材でパパッと作れて、家族にも好評でした。
作品と一緒に「同じ時間」を生きるリアリティ
この漫画が長く続いているということ自体に、独特の味わいがあります。
【ここから先、作中で描かれるテーマに触れています。物語の展開が気になる方はご注意ください】
物語が進むにつれて、シロさんもケンジも現実と同じように歳を重ねていきます。体の衰えを実感する場面が増えてきました。
親が年老いていく姿や家族との向き合い方といった、避けて通れないテーマにも触れていきます。
自分自身も同じだけ歳を重ねているせいか、親と一緒に過ごす場面や、変わっていく人間関係の描写に、ページをめくる手が止まる瞬間が何度もありました。20代の頃には気づかなかった部分に、今はつい目が向きます。
違いを認め合い、互いを大切にする温かなパートナーシップ
シロさんとケンジ、二人はタイプもペースもまったく違います。お互いの距離感を持ちながら、相手の様子がいつもと違うことに気づきつつも、ただ一緒にご飯を食べる。そういう場面が何度もあります。
言葉で解決するのではなく、食卓を囲むことで少しずつ距離が縮まっていく様子が、じんわり心に効いてきます。仕事や人間関係で消耗している時期に読むと、頑張って解決しなくてもいい関係があるのだと、心がすっと軽くなります。
周りの人たちとの関係も、少しずつ形を変えながら築かれていくところに、現実の人間関係と同じ手触りを感じます。
誰かとご飯を食べるということ
読み終えたあと思うのは、「誰かと美味しいものを食べる」という何気ない時間に、かけがえのないものが詰まっているということです。 特別な出来事が起きなくても、今日の献立を考えて、買い物をして、台所に立って、食卓を囲む。その小さな積み重ねにこそ、温かな「暮らしの手触り」があるのだと、読むたびに実感します。
まだ手に取ったことがない方は、ぜひ1巻の食卓の場面から、この空気に触れてみてほしいと思っています。

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